アルケミストプログラム【カリキュラム設計・監修】
- 順平 鈴木
- 4月22日
- 読了時間: 8分
■稼働日: 2021年7月-2024年12月
■クライアント: 株式会社ロフトワーク
■実施場所: Panasonic Creative Museum AkeruE
■担当内容:
AkeruE内FAB施設TECHNITOを舞台にした探求プログラムのカリキュラム作成含む、全体監修・運営
スタッフ教育
探求プログラムに付随する派生イベント全般のディレクション、造作の設計、など
■受賞: GOOD DESIGN賞(2023年)
「自分をつくる」プログラム
アルケミストプログラムは、Panasonicが運営するミュージアム「Panasonic Creative Museum AkeruE」(2024年末閉館)内のFAB施設TECHNITOを舞台に行われたものづくり探求プログラムです。
「自分をつくる」を掲げ、つくる行為や過程を通じて、様々な経験を積み、自身の哲学を深めていくことを目的としています。小学4年生から大人までが在籍し、自身の「好きを形にしたい」という情熱を工房に持ち込み、自分の力で3ヶ月でカタチにし、社会へ向けて自分のその「好き」をさまざまな形で発信します。
About
■ACADEMY(アカデミー)
活動期間: 3ヶ月
対象: 小学4年〜6年生
参加方法: 公募 *エントリーシート+面接などで判断
参加費: 15,000円/3ヶ月
定員: 6-8名
内容:
ティーチング/コーチングを中心とした、ものづくり入門クラス
各種機器の取り扱い、計画の立て方、発表のコツなどを学ぶ
カリキュラム的にやることが毎回決まっており、習い事に近い
STUDIOに行くための前段階としての位置付け
■STUDIO(スタジオ)
活動期間: 3ヶ月
対象: 小学4年〜大人
参加方法: 公募 *原則ACADEMY修了生対象 *エントリーシート+面接などで判断
参加費: 3,000円/3ヶ月
定員: 25組前後
内容:
コーチングをメインに据えた、アドバンスクラス
習い事ではなく、inレジデンス形式のような、一定期間活動許可&サポートが得られる
必ず1組につき1名の担当メンターがつき、活動をサポート
カリキュラムはなく、自身で計画を立て、中間審査、展示、プレゼンが義務
メンバー同士の交流イベントもあり、自身でイベント企画も可能
活動終了後も、情熱や成果が認められれば継続できる
活動に不備があった場合、途中で活動サポートを打ち切られる場合もある
「つくる」にこだわり、「自分を知ること」を目指す
AIが目覚ましい発展を遂げる、予測不可能なこの時代、「替えが効かない価値」を持った人間を育てるプログラムをつくる必要があると考えました。「替えが効かない」とは、計算能力・知識量・身体能力・手先の器用さだけではなく、何が好きで何が嫌いか、それらを得る過程で育まれた自身の思考や癖といった、その人自身とも言える不確実で複合的なパーソナル性こそがそれであり、それを武器にしていける力こそが、その人の価値になっていくと考えました。
プログラムの設計にあたり、「つくる」ことを全ての共通言語として軸におきつつ、目的は「つくる」ことではなく、「その過程で得るさまざま学びによる、自身の哲学の醸成」とすることにしました。「つくる」という行為は万人に開かれており、行為自体も楽しく、終わりがなく、また自身の努力やかけた時間がわかりやすく結果に直結するためです。
アルケミストという名前は錬金術師という意味ですが、当時の錬金術師の功績は非常に大きく、彼らは賢者の石を作ろうと努力し、そのプロセスの中で、さまざまな副産物を生み出され、それが今の現代の科学技術の礎につながっていきました。本質的に重要なものは、ゴール地点そのものではなく、その努力した過程に大切なものがころがっているのです。
そういった背景を感じる名前として、アルケミストがモチーフとなりました。右下に向かって先鋭化されていく円錐はまさに探求を続け、自分だけの領域へ到達していく様を現しています。
「つくる」に向き合い続ける3ヶ月
プロジェクトのスタートは、「自分の好きをカタチにしたい!」という「情熱」からスタートし、それを3ヶ月かけてメンターのサポートの元、形にすべく努力することになります。もちろん、当初の計画から予定が変わったり、つくることで事情が変わることもありますが、最終的なアウトプットがどうなったかはそこまで重要ではありません。
大事なのはゴールが変わりながらも、「自分をより詳しく知るために様々な手を尽くしたか」です。
3Dプリンターやレーザーカッターなどが目移りしがちになりますが、あくまで機材や素材たちは「哲学」を深めるための1手段です。ハード主体で物事を進めようとすると、概して無目的になる傾向にあり、自身の本質部分にたどり着く際にノイズになってしまうケースがあります。
FABスペースだとしても、機材に焦点を当てるのではなく、そこに集い、育つ人に着目し、それをコーディネーター(運営側)が最大化すべきであると考えています。
子どもに特化した、ものづくりメンタリング
ここでは全てのプロジェクトに一人、担当メンターがつく仕組みとなっています。
いかに「上手く綺麗に作りあげるか」は問題ではなく、「いかに自分を知り、手を動かし、それに迫ることができたか」が重要なため、一人で作り上げるのではなく、客観視してくれる役として、メンターが3ヶ月のプロジェクトの伴走を行います。
「自分はどうしたいのか」
「どこが許せなかったのか?」
「なぜそう思ったのか」
自分のことは意外と自分はわからないもので、様々な問いや対話を3か月行い、子ども自身の納得感を一緒に探ることで、結果的に作品のクオリティも上がっていきます。
メンターは、AkeruEに所属するクリエイターであり、映像作家やアーティスト、アートディレクター、果ては自動車の会社で働いていた方など、様々なバックボーンを持ったメンターが揃いました。
メンターは、子どもの作った計画や今の進み具合にアドバイスを行ったり、悩み相談といったメンタルケアも行います。あくまで計画を成し遂げるのは子ども本人ですが、メンターは本プログラムにおける重要なファクターの1つです。

社会と接続し、自分を知る
様々な施策やアクティビティを以て、「自分を知る」ことを促進させる手段をとっています。
まず自分の作品や活動を積極的に外部のお客さんに見てもらう施策を各種行いました。
最終の展示はもちろん、中間審査、途中のテストプレイ、そして作品販売などです。
作品を作り発表することは当然として、身内で作っていると新しい視点はバイアスなどもかかり、得られづらくなります。そこで様々なお客さんがプログラムのそばを往来するミュージアムという特性を活かし、「自身を社会に晒す」、つまり「自分はこう思う」とお客さんに自分の哲学をさまざまな手段で伝えていくこととなります。
時に厳しい意見や現実はあるものの、そこで得られる達成感や応援こそ、「情熱」の材料である「自己肯定感」や「自身の哲学の醸成」につながっていったのです。またそれが
次のプロジェクトへつながっていきます。長い子は3年半、同じプロジェクトに取り組み続け、最終的には万博関連イベントへつながる表彰を受けるに至りました。
またプログラムに、モチベーションとキャリア要素を導入したかったため、わかりやすい実体を伴った通貨の実装が適切だと考え、擬似通貨である「slt(ソルト)」の導入し、ゲーム要素をプログラム全体に取り入れました。sltは直訳すると「塩」ですが、過去のアルケミストたちが「硫黄」「水銀」「塩」を使っていたことになぞられています。
レーザーカッターや3Dプリンターなど、一部機材はsltがないと使用できない仕様にし、自身のやりたいことをかなえるためには努力する必要性が生まれました。sltは中間審査や、自身の作品をメンバー間で販売したり、運営のお手伝い、またプログラム中に行うミニゲームで表彰されても手に入ります。プログラムにゲーム性を持たせ、メンバー同士のコミュニケーションとモチベーションを生み出す仕組みとしてsltは寄与しました。
「好きなことって伝えてもいいんだ」ということ
本プログラムの稼働は閉館までの約3年半でしたが、200以上のプロジェクトが生まれ、たくさんの子どもたちがここで自分の哲学を育みました。現在unworkshopが契約している子どもメンバーは、全てここ出身であり、彼女らは自身の興味関心をそのまま深め、社会に提供できる価値まで高めることができました。
また発達障害や不登校などの子も多く、コミュニケーションが困難な彼らでも「つくる」という言語があったため、それで対話を行うことができました。緊張して工房に入れず号泣してしまった子も、最終的にはステーププレゼンテーションでデモンストレーションを行い、会場から万雷の拍手をもらうまでに成長し、保護者も号泣してしまう姿も見られました。
とくに多かった子どもたちの意見として「自分の好きを外に話してもいいんだと気づいた」という意見でした。学校生活では煙たがられる恐れがある、そういった「これが好きなんだ」というパーソナル性こそ、重要な武器だと認識されているため、通っているメンバーもクルーも、保護者も、全員が応援してくれる環境だったといえます。
好きなことだけではなく、嫌いなことや、恥ずかしいこと、怒ってしまうこと、といったパーソナル性も全て許容し、それを自分の武器(哲学)に変えていく。
彼らのこれからの人生において、少しでも本プログラムが寄与することができたならば幸いだなと思います。